【AICE連載セミナー】カーボンニュートラルを考える 第6回 「EV vs エアコン」 自動車のCN化に関する一考察(AICEアドバイザー 山本 博之)(1/2)
- コラム
2025.08.11
【AICE連載セミナー】カーボンニュートラルを考える 第6回 「EV vs エアコン」 自動車のCN化に関する一考察(AICEアドバイザー 山本 博之)(1/2)

AICEアドバイザー(元マツダ(株)技術研究所長) 山本 博之
前回、世界が自国ファーストの傾向を強める中、日本はカーボンニュートラル(CN)を目指しながらも、しなやかな対応と効率的な(CO2低減効果がより高い)CN技術を追求することが必要としました。後者の観点を自動車に当てはめ、「EVは効率的なCN技術なのか?」を、EVとエアコンの比較を通じて検討します。
■ CNの達成方法
図1に単純化したCN達成方法を示します。(a)は炭素を全く使わないCNです。エネルギー供給は非化石電力(再エネ、原子力発電など)のみとし、需要サイドは省エネによって必要エネルギー量を低減しながら、熱需要を電化します。もちろん最終的なエネルギー利用形態としての熱需要は変わりませんが、例えば暖房、給湯、調理に必要な熱を全て電力で賄うオール電化住宅のようなイメージで記載しています。このようなCNも達成方法は文字通りの「脱」炭素で、ブルー水素を否定し、グリーン水素やそれを用いるe-fuelのみを許容する、等の考え方です。
これに対して(b)は、供給サイドでの(1)非化石電力不足、需要サイドでの(2)限定的な省エネ効果 (3)電化や排出削減が困難なhard-to-abate領域の存在、を踏まえ、炭素を使わざるを得ない部分にはCCUS※1、CDR※2を適用する現実的なCN達成方法です。(1)~(3)については、第3回のコラムでも触れてきましたが、改めてデータのアップデートも含めて整理してみます。
※1.CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(二酸化炭素の回収・利用・貯留)排出源で回収
※2.CDR:Carbon Dioxide Removal(二酸化炭素除去)大気中に拡散したCO2を除去

(1) 非化石電力の不足
先ず、非化石電力の現状を整理しておきましょう。図2はIRENAのStatistical Profile1)にある各国のデータを基に、主要国の再エネ電力の比率をグラフ化したものです。発電設備の容量(kW)ベースでは欧州や中国など再エネ比率(左側の青色バー)が50%を超える国も少なくありません。しかしながら総エネルギー(TES)に対する再エネ発電電力量(kWh)は、右側のオレンジ色バーで示すようにほとんどの国で20%未満です。これに原子力発電(右側のピンク色バー)を加えても、30%を超える国は多くありません。図3は、IEA WEO20242)に示されている世界全体の最終エネルギー消費に対する非化石電力の割合です。2023年実績はわずか8%で、2050年でもSTEPS※3では26%、APS※4でも39%が期待されているに過ぎません。やはり膨大な化石エネルギーの全てを非化石電力で補うのは相当厳しそうです。
※3.STEPS:Stated Policies Scenario 各国が実施しているあるいは実施確度が高い政策を踏まえたシナリオ
※4.APS:Announced Pledges Scenario NDCなど各国の野心的なCN化目標を反映したシナリオ

(2) 限定的な省エネ効果
第7次エネルギー基本計画3)では、日本の最終エネルギー消費を2023年3.1億kL(原油換算)から2040年2.6-2.7億kLに削減(13-16%減)とするなど、先進国において省エネは一定の効果があります。しかしながら経済成長が著しく人口も増えるグローバルサウスを含めた世界の最終エネルギー消費は、2023年の445EJ(E:エクサ、10の18乗)に対し、2050年はSTEPSで533EJ(20%増)、APSでも434EJ(2%減)2)です。省エネは非常に重要ですが、先進国の頑張りで何とか現状維持が精一杯というところでしょうか。
(3) 電化困難なhard-to-abate領域の存在
CNの議論ではとかく電源構成の話に終始しがちですが、世界の最終消費エネルギーの内、電力はわずか20%に過ぎません。残りの80%のほとんどは、産業部門での高温プロセス、輸送部門での内燃機関の燃焼熱、民生部門の暖房、給湯、調理などの熱エネルギーで占められています。3部門の中で最も熱エネルギーを使うのは産業部門で、化学、鉄鋼の2業種でその約半分を占めます。化学の高温プロセスの電化や鉄鋼での還元鉄等を用いた電炉・電気溶融炉など4)かなり高温が要求される領域も「熱の電化」の検討・検証が進んでいます。これらを商業的に本格稼働させるには、安価かつ大量の非化石電力を安定的に供給できることが不可欠になります。また、高温加熱を電気で行う場合の均一性確保や鉄鉱石還元などの技術課題も多く、産業部門には電化困難な領域も多く残りそうです。コストや技術課題のため2050年の産業部門の電化率はSTEPSで28%、APSで41%とされており2)、60-70%のエネルギーは電化困難と見込まれています。