カーボンニュートラル実現に向けたAICEの役割

世界の動き

AICEが実施した2022年度動向調査結果※1を読み解くと、2040年にかけて世界の乗用車普及を二分している先進国とその他途上国のパワートレインの地域性の実態が見えてきました。その内容を少しご紹介します。

※1 AICE参加企業に配布される技術動向調査報告書

2040年の社会を想像します。我々が頻繁に目にする「日・米・欧・中」の地域では7割以上の乗用車がバッテリー式電気自動車 (BEV)、プラグインハイブリッド車 (PHEV)、燃料電池車 (FCEV)化に進む一方で、その他新興国では電力供給体制などの制約に起因し、2割以下に留まるという試算がされています。これは、言い換えると先進国ではBEV等が主流となる一方で、途上国では内燃機関搭載車両が主流であることを示しています。(データ参照元 日経BP「自動車産業2040」)

世界的なカーボンニュートラル(以降CNと略)に向けた機運が高まる中、輸送部門においては、走行中のCO2を含む排出ガスがゼロであるBEVに大きな期待が集まっています。この考え方は、各国の再生可能エネルギーに基づく電力供給を前提とした施策で、欧米中のリードによって進んでおり、内燃機関搭載車規制の考え方にもつながっています。

一方で、社会から求められる内燃機関搭載車両に対しても、待ったなしと言われるCNへの取り組みの手を緩めることはできないと言えます。

このような実態を踏まえ長期視点で今後の自動車用パワートレインを見ると、世界の自動車市場における二酸化炭素排出削減およびCN実現には、内燃機関を含め、様々なパワートレインの技術進化が地域軸、時間軸毎に求め続けられるという複雑な時代になっていると言えます。

AICEのCN技術シナリオ

CN実現に向けたAICEの技術シナリオ

図1 内燃機関搭載車両におけるCN実現に向けたAICEの技術シナリオ (ガソリン車の事例)

2020年から、AICEは内燃機関搭載車両でもCN実現は可能であるとの判断のもと、経済産業省や他団体との連携を通し、CN実現に向けたAICEの技術シナリオ(以下「技術シナリオ」と略)を策定※2しました。
※2 ガソリンエンジン乗用車と、ディーゼルエンジン重量車の2種を策定

内燃機関搭載車両の最大の課題は、走行中の燃料の燃焼によって発生するCO2の排出です。AICEでは、このCO2排出量をゼロにするために、様々な内燃機関の技術進化で排出量を抑制することと、CO2吸収除去技術を融合した「CNの考え方」を導入しています。この課題を解決するための4つのステップを技術シナリオとして定義し、それぞれのステップごとに選定した研究アイテムを抽出しました。これらのCO2排出量削減の効果ポテンシャルを見積もるため、技術シナリオの4ステップに対して数値解析を実施、その結果を図1に示します。まず、2015年のガソリン車のWell to Wheel(以下「WtW」と略) CO2排出量を100%とすると、HEV化を含めた①平均熱効率向上で50%以下、最大熱効率向上のための②エンジン熱効率向上策で30%以下のレベルを実現できる可能性があり、更にAI制御や軽量化など、③車両の効率向上を含めると、20%以下まで削減の道筋が見えてきます。これらに加え、CN燃料適用を含む④炭素除去技術によってゼロを、すなわちCNを目指します。
現在、AICEは、この技術シナリオの実現を目指して研究活動を推進しています。

CN実現に向けたAICEの役割

CN実現に向けたAICEの役割

表1 CN実現に向けたAICEの役割

2010年前後の日本では、グローバルな燃費、排気規制強化により内燃機関の開発負荷の増大が大きな課題となっていました。将来への危機感から自動車メーカーが集まり、2014年にAICEを設立しました。AICEでは、欧州の産学連携スタイルを参考にし、日本の特徴を生かした産産学学連携スタイルを開始、内燃機関の高効率化、及びゼロエミッション化を目標に、内燃機関の基礎応用領域の研究を進めてきました。約10年が経過した現在、乗用車のみならず大型車両、農機、建機、サプライヤなど多くの内燃機関技術を有する日本の仲間が参画する団体になりました。また、アカデミアとの関係強化のため、研究パートナーとしてゼロエミッションパワーソース研究コンソーシアムに特別会員として参加しています。
2020年以降、産学連携によるCNの実現をAICEの役割と定義(表1)し、これに沿って活動を進めています。

2023年現在、AICEに集まった仲間と前述のAICEの役割を実現するために、2022年に応募し採択されたNEDOのグリーンイノベーション基金事業1)の推進により、AICEのCN技術シナリオの実現に向けて邁進してまいります。そして、この100年に一度の大変革時代の中で、社会ニーズ、企業ニーズに応えつつ、産と学(研究者、学生)のwinwinの関係を発展させ、日本の将来に繋がる産官学連携のひな型となること目指します。
1) https://green-innovation.nedo.go.jp/project/development-fuel-manufacturing-technology-co2/

自動車用内燃機関技術研究組合 運営委員会
委員長 菊池 隆司