【AICE連載セミナー】国内外の太陽光発電の現状(産業総合研究所 大関 崇 第1回)
- コラム
2025.06.06
【AICE連載セミナー】国内外の太陽光発電の現状(産業総合研究所 大関 崇 第1回)

大関様に執筆頂いた記事を、4回に分けて掲載いたします。
●第1回:国内外の太陽光発電の現状
第2回:太陽光発電の更なる導入拡大に向けて(6月下旬掲載予定)
第3回:太陽光発電が持続的な長期安定電源となるために(7月上旬掲載予定)
第4回:2050年カーボンニュートラル実現に向けた太陽光発電の役割(7月下旬掲載予定)
著者 大関 崇
(国立研究開発法人 産業技術総合研究所
再生可能エネルギー研究センター 太陽光システムチーム)
1.はじめに
太陽光発電がカーボンニュートラル(以下、CN)への貢献の観点として、AICE連載セミナーに際し、CNに関する執筆を要請いただきました。太陽光発電の現状から、将来に向けての展望と課題についてまとめてみたいと思います。まず、国内外の市場等の状況を概説し、更なる国内への導入拡大に向けて必要なこと、また長期安定電源化を実現し、主力電源となるために必要なことについて寄稿したいと思います。
2.国内外の太陽光発電の現状
2.1 国際状況
2023年は、世界の太陽光発電の累積導入量(DCベース)が1,581GWとなり、2022年に1TWをはじめて超え、さらに導入量が増加しました。累積では、中国が662.0GW、米国が169.5GW、インドが95.3GW、次いで日本が95.3GWである1)。単年度の導入量は477GW、半分が中国であり235.5GW、米国33.2GW、インド16.6GWと続いています(日本は6.3GW)。
太陽電池の生産量については(こちらは2022年データ)、太陽電池セルのシェアが中国81.2%、マレーシア5.4%、ベトナム3.6%(日本は0.2%)、太陽電池モジュールのシェアが中国75%、ベトナム6.8%、マレーシア3.7%(日本は0.9%)となっています1)。
また、パワーコンディショナについては、分散型、集中型と大別されるが、分散型が約70%、集中型が約30%となっています2)。2021年の出荷量は224GW(ACベース)であり、メーカシェアはHuawei 23%、Sungrow 21%、Growatt 7%など、Top5位までが中国企業となっています。国内企業ではTMEICが米国市場を中心に出荷しており、シェア3%でありTop10に入り頑張っているところです3)。
中国の単年度導入量が、日本の累積導入量を超えていることや、太陽電池モジュールの生産トップシェアのLongi Green Energy technologyの生産能力が38.9GW1)であり、1社で日本の年間導入量を賄えることからもわかるように、世界市場は中国が需要と供給の両面において牽引しています。他方で、最近ではサプライチェーン全体が中国企業へ依存していることから、自国での生産能力を高めるような政策を打ち出す国も増えてきています。例えば、米国では、設備投資と生産へのインセンティブ(税控除)を行うインフレ抑制法(IRA)成立後、2022年6月からの1年間で太陽電池モジュール85GW/年、パワーコンディショナ6.8GW/年の自国生産の工場計画が発表されています4)。その他、インド、ドイツ、オーストラリアなども同様な政策の動きがあります4)。Mckinseyの分析では、中国製を輸入した場合の輸出コストや関税なども考慮すると、インセンティブによっては各国で自国生産でも同様なコストで生産できる分析結果も示しています5)。生産設備投資に踏み切るには、国内市場の一定量あることが重要であり、米国では2022年において系統接続申請で947GWあることや6)、ドイツでは年間導入量を2026年に22GW/年に拡大することを想定するなど7)、市場拡大政策との両輪で検討されていることが特徴です。国内では、次世代太陽電池のペロブスカイトについてはサプライチェーンも含めた施策が議論されていますが、結晶系シリコンを含む太陽電池全体では議論はなされていません。
技術トレンドに関しては、太陽電池の種類は、結晶シリコン系が9割以上のシェアであることは、10年以上変化していませんが、2018年ごろより多結晶シリコンから単結晶シリコンのシェアが8割以上占める市場へと移り変わっています。また、単結晶シリコンの中でも現状のPERCからTOPCon、さらに将来的にはヘテロジャンクション、バックコンタクト、タンデムへのうつっていることが想定されており、また太陽電池モジュール効率も現状の22%から2033年にむけて24~26%となることが予想されています。これらトレンドは、5~10年程度は継続することが想定されています8)。
コストについては、2021年の世界の加重平均LCOE(Utility scale)では、0.048USD/kWhであり、2010年の0.417USD/kWhからコスト低減が大幅に進み、他の電源と比較すると洋上風力発電の0.033USD/kWhに次いで安価な電源となっています(水力と同額)9)。もちろん、電力系統における統合コストをどのように考えるかはありますが、低コストによるエネルギー供給の可能性を示しています。
将来の導入見通しやシナリオは様々存在しますが、IEAのNet Zero Roadmapでは、2030年に6,101GW(年間823GW)、2050年に18,753GW(年間815GW)が示されております10)。また、産総研、NREL(米国立再生可能エネルギー研究所)、フランフォーファ(欧州の応用研究機関)などで検討したワークショップでまとめた論文では11)、近年の25%前後の市場成長率を10年ほど継続し、年間約3.4TWの年間導入設備量、2050年に累積で75 TWに達するシナリオが示されるなど、世界的には更なる導入拡大が期待されています。
2.2 国内状況
国内の太陽光発電に関する状況としては、2012年までの住宅用市場中心で進んだ累積導入量5GWから、再エネ特措法施行後は、地上設置を中心とした導入が進み、2023年においてDCベースで95.3GW1)、2022年度一般送配電事業者合計ではACベースで70.4GWです12)。エネルギー供給量は、2022年926億kWhであり、発電電力量10,082億kWhの9.2%である13)。発電電力量による燃料費削減効果は、回避可能費用相当とすると、1兆4,609億円(2022年想定)、3兆6,353億円(2023想定)となっています14)。産業に関しては、2021年における関連企業数が2018年から29.2%減の約5423社、市場規模は54.4%減ですが、22.5兆円規模となっています。黒字額も58.1%と低減し5,657億円であるが、一方で赤字も縮小して849億円であり、再エネ特措法後の急激な新規参入者増加の市況から淘汰が進んでいる状況と考えられます15)。光産業における2021年国内生産額(見込み)は、太陽光発電分野1.2兆円であり、ディスプレイ・照明分野の約2.7兆円より小さく、プリンタ、デジカメ等の入出力分野の約1.2兆円よりやや大きい産業となっています16)。
コストについては、2023年設置の事業用システムのプライスが、14.7~25.1万円/kW、維持管理 0.5万円/kW/年であり、発電コストとしては、2022年設置年のシステムで12~14円/kWhです17)。2023年設置の住宅用システムプライスは28.4万円/kW、維持管理 0.58万円/kW/年となっています17)。それぞれ2012年から比べると事業用・住宅用ともに約4割減となっていますが、世界と比べるとまだ高い水準であり、ドイツと比較しても約2倍程度となっています(Utility scaleのコスト:日本:1432€/kW、米国:919€/kW、独:587€/kW、中国:531€/kW18))。
このように順調に国内市場拡大はしてきましたが、2022年の調達買取価格は、4兆7,477億円(太陽光発電以外も含む。2023年度における想定)であり14)、2030年度のFIT(固定価格買取制度)買取用で想定していた3.7~4兆円を超えています19)。また、導入量は2022年度においても年間5.1GW程度ありましたが、認定量は、1.5GWまで縮小しています20)。国内の太陽電池出荷量は、2022年度は5、085MWであるが、国内生産モジュールが525MW(10%)、海外生産モジュールが4,560MW(90%)であり、ほとんどが輸入に頼っています21)。これにより、太陽電池モジュールの貿易収支は、2021年度は609億円、2022年は2,578億円の貿易赤字となっています22)。
更に急激な導入拡大に伴い、土木・構造、電気火災などの安全性の懸念、各種土地関連法令などを遵守できてない事業者、景観等地元理解で不十分である事例など、適正でない事業が増加しています23)。2022年度における電気事業法上の事故報告内の太陽光発電の事故件数は事業用(50kW以上~)が451件、小規模(10~50kW)が277件であり、需要設備の221件に比較して多いことや、100万kWあたりの件数も増加しています24)。また、産総研が保険会社から情報提供を受けた事故情報を分析した結果(2015~2020;ただし各社期間が異なる)、総数が850件、支払い総額が約202億円になるなど、風水害による太陽電池モジュール・架台の飛散や損壊、地盤崩壊などが発生しています25)。
この背景として、2012年度以降の導入箇所として、農地転用の件数が2011~2020年度合計で約13GW(1MW/haで換算、13,414 ha、79,774件)26)、林地開発許可案件が2011~2021年度の合計で約16GW(1MW/haで換算、16,289ha、1,814件)27)、2014~2019年度の林地開発許可の面積のうち半分を太陽光発電が占めているなど土木造成が発生する案件が増加していることも一つの要因と考えられます28)。国立環境研究所の分析では、0.5MW以上の8,725施設による土地の改変面積は229.211km2であり、都市部を除くと約18GW(1MW/haで換算)となっています29)。事故事例の要因として、設計・施工の問題があげられ、再エネ特措法施行直後は、入口で設計・施工をチェックする体制や規制が十分無かったことも事故が増加要因の一つと考えられます。これらを適正化するために、各種行政側の対応も進められており30)、例えば、電気事業法における使用前自己確認の拡大(10~500kW)、小規模事業用を新設し維持義務を追加、林地開発許可の見直し(対象規模:1ha→0.5ha、排水設備:10年→20~30年、施工体制の確認、防災施設等の施工後の管理、地域意見の聴取など)、盛土規制法の施行(2023/5~、盛土高さ2m超、切土高さ5m超、開発面積 3000m2超の開発行為、危険盛土の取締りも可;事後的な区域指定)、改正温対法による保全エリア、調整エリアの設定、再エネ特措法の土地関連法令許認可を認定要件にすることなどがあげられます。また、既設の案件への対応として、電気事業法の立ち入り検査の増強31)や再エネ特措法の違法案件の取締りとして交付金留保する仕組みの導入などが進められています32)。
また、地域共生は、安全性の話だけではなく、景観等も含めて、住民と事前にコミュニケーションをしっかりとることや地域に対してどのように裨益するかが重要です33-35)。これら地域ごとの対応のため、関連する条例も2024/1において都道府県8条例、市町村条例264条例制定による規制が増えており、また再エネ特措法においても説明会を義務化されました36)。ただし、再エネ特措法以外の案件が増加することを考えると、改正温対法のポジティブゾーニングやその他関連法令との連携が必須です。現状は、問題ごとに事後にする対応が多いですが、さまざまな制度変更が行われてきたこともあり、今後導入される新設案件に関しては適正化が進んでいくと考えられます。他方、既設案件への対応は、すでに数十GW導入が進んでいることからも対応は極めて困難と考えております。電気事業法による取締り強化などが一部進んでいること31、37)、設備変更時には再エネ特措法の説明会や使用前自己確認などが既設においても実施されるなどは要件としてあるため、今後適正化が進むことを期待しております。
このように国内市場としては、再エネ特措法により設備容量の導入拡大は実現できましたが、主力電源化に向けて、エネルギーインフラとなるには課題は様々存在しております。
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参考文献
1)IEA PVPS, Trends in Photovoltaic applications 2022
2)Fraunhofer Institute for Solar Energy Systems, ISE, PHOTOVOLTAICS REPORT, 21 February 2023
3)Wood Mackenzie,Global solar PV inverter and MLPE landscape 2022
4)資源総合システム資料
6)emp.lbl.gov/utility-scale-solar/
7)資源総合システム「太陽光発電戦略」(2023年5月)
8)ITRPV, 14th edition
9)IRENA, Renewable Power Generation Costs in 2022
10)IEA, Net Zero Roadmap A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach 2023 Updat
11)Nancy M. Haegel et al. ,Photovoltaics at multi-terawatt scale: Waiting is not an option.Science380,39-42(2023).
12)自然エネルギー財団
13)エネルギー需給実績
14)再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2023年度以降の買取価格等と2023年度の賦課金単価を設定します
15)帝国データバンク,太陽光関連動向調査(2021 年)
16)OITDA, 2022年度 光産業全出荷額・国内生産額調査
17)調達価格等算定委員会「令和6年度以降の調達価格等に関する意見」について
18)IRENA, Renewable Power Generation Costs in 2022
19)資源エネルギー庁, 長期エネルギー需給見通し 関連資料, 平成27年
20)電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第52回)
21)JPEA 出荷統計
22)財務省貿易統計
23)第1回 再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会
24)電気事故保安統計
25)大関, 太陽光発電の事故分析(保険会社の事故情報),太陽エネルギー, Vol.48 No.5, 2022
26)農水省 HP
27)林野庁HP
28)農水省,太陽光発電施設の設置を目的とした林地開発に対する林野庁の取組について, 再エネTF
29)国立環境研究所,太陽光発電施設による土地改変施設の範囲を地図化,設置場所の特徴を明らかに
30)経産省, 第1回 再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理のあり方に関する検討会 資料
31)令和4年度新エネルギー等の保安規制高度化事業(発電用太陽電池設備に関する技術基準適合性調査)報告書
32)再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ 中間とりまとめ
33)丸山他,どうすればエネルギー転換はうまくいくのか, 新泉社 (2022/3/16)
34)山下紀明, 地域で太陽光発電を進めるために地域トラブル事例から学ぶ, 科学 88 (10), 1015-1022, 2018-10
35)前川洋平他; 太陽光発電事業に対する地域住民の賛否態度の規定要因に関する研究,計画行政,2023年46巻1号
36)第12回 再生可能エネルギー長期電源化・地域共生WG
37)電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第54回)