【AICE連載セミナー】太陽光発電の更なる導入拡大に向けて(産業総合研究所 大関 崇 第2回)
- コラム
2025.06.20
【AICE連載セミナー】太陽光発電の更なる導入拡大に向けて(産業総合研究所 大関 崇 第2回)

大関様に執筆頂いた記事を、4回に分けて掲載いたします。
●第2回:太陽光発電の更なる導入拡大に向けて
第3回:太陽光発電が持続的な長期安定電源となるために(7月上旬掲載予定)
第4回:2050年カーボンニュートラル実現に向けた太陽光発電の役割(7月下旬掲載予定)
著者 大関 崇
(国立研究開発法人 産業技術総合研究所
再生可能エネルギー研究センター 太陽光システムチーム)
3.導入拡大に向けて
ここからは、更なる導入拡大に向けての課題と展望を述べます。現状の国内における導入見通しは、2021年10月22日に閣議決定された第6次エネルギー基本計画および2030年度におけるエネルギー需給の見通しの資料の数値が、当面の導入目標として考える材料となります。策定段階の2019年度末においてACベースで累積導入量が55.8GWであり、政策強化ケースにおいて100GWが導入見込みとされていました38)。その後、電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会において、2022年度末時点の導入量70.7GW(+14.9GW;5GW/年×3年)から2030年度に向けての導入目標として103.5GW~117.6GWが示されました。ここでは、環境省、国交省、農水省の分担の中で、政策強化として「公共部門の率先実行:6.0GW」「地域共生型太陽光発電の導入:4.1GW」「空港の再エネ拠点化:2.3GW」、野心的水準として「民間企業による自家消費促進:10.0GW」「新築住宅への施策強化:3.5GW」「地域共生型再エネの導入促進:4.1GW」の導入見込みが示されています39)。それぞれ内訳は明確ではないですが、2023年度~2029年度末:49.4GW/7年について、建物設置と地上設置型に大別し未稼働案件の8.9GWを含めると、下記のような水準と推測できます。
・建物(努力継続) :+7GW(1GW/年×7年)
・建物(政策強化) :+8.3GW
・建物(野心的) :+13.5GW
・地上(努力継続) :+3.5GW(0.5GW/年×7年)
・地上(政策強化) :+4.1GW
・地上(野心的) :+4.1GW未稼働案件が8.9GW
3.1 建物設置:住宅
建物設置の住宅システムについて、累積導入量は約14GWであり40)、戸建住宅で12.2%、集合住宅で0.1%、全体では6.6%と推定されています41)。導入ポテンシャルは約166GWであり42)、既築を含めると十分に導入の余地があります。昨今の導入量は、2022年度において約1GW(19万件)でした40)。新築と既築の導入内訳はありませんが、参考に2022年度の新設住宅着工戸数は86万戸とすると43)、全数新築としても約2割となります。2030年において新築戸建住宅の6割に設置するという目標と比較すると更なる導入が期待されます。これを達成できれば、50万戸×5kW=2.5GW/年であり、単純に5年でも12.5GWの追加導入となります。その実現には、東京都がすすめる建物供給事業者(年間に延床面積の合計で2万㎡以上)への設置義務化44)やそれに伴う支援策、また川崎市の同様な動きが市場のドライブになると考えられます。他方、住宅用の課題としては、流通による価格があります。2023年設置の住宅用システムプライスの28.4万円/kWのうち、太陽電池モジュールが14.7万円/kWとなっていますが17)、結晶シリコン太陽電池モジュールのスポット価格は2020年以降0.25USD/W以下であり45)、高く見積もっても5万円/kW程度です。そこから差分は商流を通る間の中間マージンと推定でき、その低減方策は古くより課題として残っています。年間数十棟以下のような中小公務店などへ導入する解決方法の一つとして、共同購入の仕組みがあり46)、これにより一定のマスで調達することによる商流のマージン削減等が期待できます。また、内閣府調査における住宅用太陽光発電の導入の懸念材料としては、「導入にあたっての初期費用が高い」が33%となっています47)。対策の一つとして、初期費用ゼロのリースや屋根貸しといった各種サービス商品も市場に存在しますが、まだ認知度が低く、同調査では住宅購入を検討している者では29%、検討していない者では8%程度認知度であり47)、さらなる広報などが必要です。更に、蓄電池利用も一つのオプションであり、PV:4.5kW、20万円/kW、維持管理0.3万円/kW/年として、蓄電池:5kWh、6万円/kWhあたりから10年回収の計算事例もあり、蓄電池価格によっては、買取価格に依存せずに導入が進むと考えられます48、49)。
3.2 建物設置:非住宅
建物設置の非住宅システムについては、累積導入量および年間の導入量の正確な数値は現在不明です。公共建物については、導入済が約0.9GW、ポテンシャルが約20GWと推定されています42)。民間建物については、累積導入量が不明ですが、約260GWという大きなポテンシャルがあります42)。なお、累積導入量の参考として長野、岐阜、静岡、愛知、三重における導入場所の推計した研究結果では、住宅用も含めて建物系が55%となっています50)。
公共建物については、政府実行計画において、2030年度までに設置可能な建築物(敷地含む)の約50%以上に太陽光発電を設置することを目指すこととされていますが、現状では6.5%程度の導入であり、率先して導入が行われると考えられます。また、地方自治体においても地球温暖化対策推進法の地方公共団体実行計画(事務事業編)に関する取組は、政府実行計画に準じて取組を行うことが求められているため、短期的には公共建物において一定程度の導入が期待されます51)。民間建物については、建築物省エネ法52)の「再生可能エネルギー利用設備の設置に係る建築士の説明義務」建築物に対する高さ制限、容積率制限、建蔽率制限の特例許可制度などの「再エネ促進区域における形態規制に係る特例許可の創設」などによる導入促進が期待されます。また、屋根置きのFIT調達価格を設定するなども後押しになると考えられますが、現状の自家消費分便益は、大手電力の直近10年間(2013年度~2022年度)の産業用電気料金単価の平均値として19.56円/kWhであり17)、再エネ特措法を利用しない場合でも、現状でも経済性が十分に期待できます。リース、オンサイトPPAによる導入も進んでいる一方で、設置するユーザーが中小企業にまで及ぶには、初期投資負担の無いスキームや、更なる効果の広報が必要と考えられます。当面は、非住宅の建物分野における導入拡大が重要であるため、地銀などの地域に根差したプレーヤーと、地域への営業力や提案力を持つEPCやPPA事業者の人材育成必要となります。なお屋根置きについては、ドイツにおいても2021年の導入量5.1GWのうち約40%(約2GW)が10kW以上屋根置きであり、同様な市場形成が想定されます2)。
他方で、屋根置きの場合は、その建物の耐震強度が不足または不明な場合があること、屋根の形状によっては防水層との関係で、建物の主要部への緊結できないケースもあり、経済的な設置が困難なケースもあります(例えば、防水層が存在する陸屋根設置など)。現状、設置困難な建物のポテンシャル評価はできていませんが、対応方策として、ペロブスカイトをはじめ、軽量モジュールの可能性なども検討されています53)。建物設置は地上設置よりも人の活動領域に近いところへの設置のため、安全性、特に飛散事故の可能性がある風荷重への設計が非常に重要です。現在、NEDOプロジェクトにおいて、建物設置型の設計・施工ガイドライン策定が進められており54)、適切に建物設置型の設計を行える人材育成も重要な課題です。
また、更なる導入としては、壁面への設置も考えられますが、屋根置きの南向きの設置と比較すると、入力の日射エネルギーが低下すること(例えば、東京において南30度と比較して、垂直設置は30%減など)があるため、壁面設置システムは、通常の屋根設置よりもコストダウンが求められます。解決方法の一つとして、建材と太陽電池モジュールが一体となったBIPV(建材一体型)も将来的に考えられます。これまでもBIPVシステムは存在していましたが、特注品になることなどコストの面で導入が進んでいませんでした。昨今の太陽電池セルのコスト低下から、BIPVに適したモジュール化や施工方法など、再度設置拡大の検討が期待されます。また、建物設置には熱貫流率などの建材としての性能や意匠性もひとつの重要な項目であり、評価方法やさまざまな色彩の太陽電池モジュールの開発なども進められています55)。
3.3 地上設置
地上設置型のシステムについても、累積導入量は正確にはわかりません。しかしながら、2023年9月時点の10kW以上の導入量は約57.2GWであり、前述の通り林地開発や農地転用の実績からの推定容量が約29GW26、27)とすると、約半分以上は地上設置型であると推定されます。地上設置のポテンシャルは、さまざまなシナリオがありますが、ある試算では約1,000GWとされています42)。ただし、そのうち、田:300GW、畑:472GWであることから、これらを除くと、荒廃農地の再生利用可能な場所が18~100GWと幅があり、再生利用困難な場所が213GWとなっています。その他、電中研の各種競合や受容性重視シナリオでは110GWと試算されています56)。荒廃農地のポテンシャルは大きいですが、地域共生との懸念があるため、農業との融合は最重要課題です。
農業との融合については、考えられる方法の一つに営農型太陽光発電があります。現状では、2021年度までに4,349件、1,007.4haです(1MW/haとすると約1GW;営農型のため面積効率は通常より低いためやや過大推定)57)。海外と比較して事例件数は多いものの、設備容量としてはまだ少ないのが現状です。更なる導入のための規制緩和策として、農水省の一時転用が10年とできる方策、非農地判断の明確化と迅速化などが進められています58)。他方、これまでに営農型太陽光発電のもとでの営農への支障割合が18%(458/2,535件)であり、単収減少335件(73%;335/458件)、災害等 73件(15%;73/458件)、設置工事遅延32件(7%;32/458件)などが報告されています59)。そのため、適切な事業実施、発電に重きを置き営農がおろそかにされるケースが散見されている課題に対応するため、施行規則を定めることおよび関連する「営農型太陽光発電に係る農地転用許可制度上の取扱いに関するガイドライン案」を策定されました60)。海外では、農業と連携した太陽光発電は広い定義のものとAgrivoltaics(太陽光発電と農業の両方に土地を同時に利用すること)として整理されており、各種研究が進められています61)。特に農作物への影響なども実証データが収集されるなども実施されています。国内では農作物への影響など地域ごとのデータ、事例の検討が不足していることが課題の一つとしてあげられます。
また、これまでの太陽光発電を主とした考え方でなく、農業主導による導入が必要です。そのためには、農業側の政策と連動する必要があり、みどりの食料戦略や人・農地プラン、目標地図などとの連携が非常に重要となります62)。特に、荒廃農地の再生が可能とすることが農業発展にも寄与するため、営農型に限らず、圃場整備事業との連携による大区画化と一部地上設置太陽光発電の導入のケースのような区画整備との連動など、農業に役に立つための太陽光発電の導入形態について検討が必要です。また、農業分野では、電力需要があまりない場所への設置となるため、スマート農業やガソリンスタンド不足による電動車も含めた電化との連携、他の発電システムを含めた農山漁村全体のエネマネも重要であり、研究レベルではVEMS(Village Energy Management System)が進められています63)。
農業以外では、如何にして地域共生、受容性を確保するかが鍵となります。地域共生は、安全性の確保、事業者や事業内容を知らないことへの不安払しょく、地域への裨益、などが重要なファクターであり、優良な事例、ビジネスモデルの横展開が必要です。これまでもベストプラクティクスとして、REASP/JPEAからも公開されていますが64)、継続して地域課題を解決可能な事例の増加が必要と考えられます。例えば、現状の情勢を鑑みると山林への開発は憚られますが、太陽光発電を人工林増加に伴う獣害対策の緩衝帯を期待する研究などもあり65、66)、本来は地域課題を解決しうる導入形態も再度検討することも必要と思います。また、GRAPHGATE 写真・映像作家 発掘オーディションでは、地域に設置された太陽光発電の写真がグランプリを獲得しています67)。撮影者は、太陽光発電の開発と人々が共棲するための方法とし「太陽光パネルを美しく撮影した景観写真は、共棲のために写真ができること、空の情景を美しく反射する太陽光パネルの在りようは、元々あった景観が失われるさびしさと、失うことによって得られたものを象徴する景色として表現」したことが評価されています。社会課題を表現された一例ではありますが、地域共生、共創は多様な価値観におけるコミュニケーションから生まれるものだと思います。
温対法のポジティブゾーニングはそういったことを推進することに有効な方策の一つですが、地方公共団体実行計画制度のマニュアルや支援策は揃ってきてはいるものの、施行後1年で、11市町村のみ促進区域を設定するに留まり、まだ有効に機能はしてないのが現状です。ポジティブゾーニング設定の課題として、自治体の人材不足、CO2削減や再エネ導入は自治体への直接的メリットが希薄なこと、事業者側のメリットが明確でないこと、などが挙げられています68)。調達算定委員会でも地域活用案件との関係も検討されており17)、地域新電力の役割も期待されますが、同様に人材不足の問題などもあり、必ずしもシェアを伸ばせてないのが現状です。地域課題解決に向けた案件へのインセンティブ設計(場合によって規制強化からの部分的規制緩和)、計画的な系統整備などが今後は必要と考えられます。また、需要近接型でないため、オフサイトPPAなどを活用しつつ、需要家のマッチングが重要となります。燃料費と環境価値によりどの程度経済性が取れるかが決まりますが、JPEAによる分析では、環境価値が4.3円/kWh以上であれば燃料費の効果がなくても需要家メリットがあることが示されているため69)、需要家へのマッチング支援なども有効であると考えられます。
今後の人口減を考えると地上設置型は将来に向けて、太陽光発電など再エネが主ではなく、地域課題解決が主となり、土地利用政策(例えば、国土利用計画;国土の長期展望など)とも連携が重要となってきます。農業発展、森林の保全、生物多様性(ネイチャーポジティブ、30by30)との融合、ベストプラクティクス70)を増加させると共に、社会科学としての研究がより重要になってくると考えています。
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参考文献
2)Fraunhofer Institute for Solar Energy Systems, ISE, PHOTOVOLTAICS REPORT, 21 February 2023
17)調達価格等算定委員会「令和6年度以降の調達価格等に関する意見」について
26)農水省 HP
27)林野庁HP
38)2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)
39)電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第44回))
40)経産省, 第87回 調達価格等算定委員会
41)環境省,令和4年度 家庭部門の CO2排出実態統計調査結果について(速報値)
42)環境省,令和3年度再エネ導入ポテンシャルに係る情報活用及び提供方策検討等調査委託業務報告書ポテンシャル
43)国交省,令和4年度の新設住宅着工戸数(概要)
44)東京都,カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針
45)資源総合システム資料
46)ondankataisaku.env.go.jp/re-start/howto/02/
47)内閣府政策統括官付, 省エネ住宅の普及促進に関する取組と課題, 経済財政分析ディスカッション・ペーパー
48)経産省, ソーラーシンギュラリティの影響度等に関する調査報告書 : 平成29年度新エネルギー等導入促進基礎調査
49)経産省,定置用蓄電システムの普及拡大策の検討に向けた調査 令和4年度
50)加藤他,FIT太陽光発電の導入・認定地点における土地利用形態に関する調査,太陽エネルギー学会2023年研究発表会
51)電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第53回)
52)www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/03.html
53)www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101501.html
54)www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100174.html
55)「太陽光発電主力電源化推進技術開発」(中間評価)分科会
56)総合資源エネルギー調査会基本政策分科会 第34回
57)www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-32.pdf
58)第10回再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース会議資料
59)今後の望ましい営農型太陽光発電のあり方を検討する有識者会議
60)営農型太陽光発電に係る農地転用許可制度上の取扱いに関するガイドライン(案)
61)Fraunhofer Institute for Solar Energy Systems ISE , Agrivoltaics: Opportunities for Agriculture and the Energy Transition, 2022
62)www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/
63)NEDO成果報告書, 農山漁村地域のRE100に資するVEMSの開発
64)REASP/JPEA, 太陽光発電の健全な運営にむけたベストプラクティスの事例集
65)吉富他, 地上設置太陽光発電による生物多様性回復に向けた検討, 太陽エネルギー学会2022年研究発表会
66)高橋他,GISを用いたPV向けの人工林の樹齢を考慮した適地検討,太陽エネルギー学会2023年研究発表会
67)GRAPHGATE 写真・映像作家 発掘オーディション
68)環境省,地域脱炭素を推進するための地方公共団体実行計画制度等に関する検討会
69)JPEA,需要家主導による太陽光発電導入促進に関する調査
70)SolerPower Europe, Solar, Biodiversity, Land Use: Best Practice Guidelines